広告用の画像や動画を制作していると、「著作権のことは気をつけているけど、肖像権って何が違うんですか?」と聞かれることがあります。
実はこの2つ、根拠となる法律も権利を持つ人もトラブルになったときの考え方もまったく別物。
混同したまま制作を進めると、思わぬところで権利侵害のリスクを抱えることになります。
今回はこの2つの違いを整理したうえで、肖像権・パブリシティ権のルールを大きく方向づけた最高裁判決「ピンク・レディー事件」を取り上げながら、広告制作の現場で気をつけるべきポイントをまとめます!
著作権と肖像権はそもそも別モノ
著作権:法律に明文化された権利
著作権は著作権法という法律に明文で定められた権利です。
写真・動画・イラスト・音楽など、創作的な表現に対して、創作された瞬間に自動的に発生します。
登録などの手続きは不要です。
権利を持つのは原則として、作った人(著作者)です。
広告制作の現場でよくある誤解が、『制作費を払ったのだから、写真や動画の著作権はクライアントのもの』という考え方。
契約書で著作権譲渡を明記しない限り、著作権は制作者側に残るのが原則なので、ここは契約時にしっかり詰めておく必要があります。
さらに、著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権など)は譲渡できない権利です。
「著作権は譲渡する」と契約書に書いても、人格権については別途「不行使特約」を入れておかないと、後から無断で改変されたとクレームになるリスクが残ります。
肖像権・パブリシティ権:判例で形成されてきた権利
一方、肖像権には著作権法のような明文の規定がありません。
憲法が保障する人格権・プライバシー権を土台に、裁判例の積み重ねによって認められてきた権利です。
『誰にでも認められるみだりに自分の容貌を撮影・公表されない権利』が肖像権であるのに対し、『自分の肖像権に対し積極的に対価を要求できる権利』がパブリシティ権と呼ばれます。
広告制作で問題になりやすいのは、まさにこのパブリシティ権。
肖像権・パブリシティ権を方向づけた「ピンク・レディー事件」
パブリシティ権については、長らく法律の明文規定がなく裁判例ごとに判断基準がバラバラでした。
この状況に統一的な基準を示したのが、最高裁判所第一小法廷が平成24年(2012年)2月2日に下した、いわゆる「ピンク・レディー事件」判決。
【事件の概要】
女性デュオ・ピンク・レディーとして活動していた2人が、週刊誌の記事に無断で自分たちの写真を使われたとして、発行元の出版社に対して損害賠償を求めた事件です。
問題となった記事は、当時流行していたピンク・レディーの楽曲の振り付けを利用したダイエット法を紹介する内容で、各曲の振り付けに合わせて彼女たちのステージ写真が1枚ずつ掲載されていました。
写真はいずれも小さな白黒写真で、雑誌全体うち3ページの中で使われたにすぎないものでした。
【最高裁が示した「専ら基準」】
最高裁は、人の氏名や肖像は個人の人格の象徴であり、人格権に由来するものとしてみだりに利用されない権利があると位置づけました。
そのうえで、販売を促進する顧客を惹きつける力を排他的に利用する権利をパブリシティ権と呼び、これは人格権に由来する権利の一部だと整理しています。
さらに、肖像などを無断で使う行為がパブリシティ権侵害として違法になるのは、次の3つのケースのように「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」と言える場合だと基準を示しました。
- 肖像そのものを鑑賞用の商品として独立して使う場合
- 商品の差別化を狙って肖像を商品に付ける場合
- 肖像を商品の広告として使う場合
なぜピンク・レディー側は敗訴したのか
最高裁は、問題になった写真が雑誌全体のごく一部で使われた小さな白黒写真にすぎず、記事の内容を補足する目的で使われたものだと評価し、専ら顧客吸引力の利用を目的としたとは言えないと判断しました。
結果として、ピンク・レディー側の請求は認められませんでした。
つまり、有名人の写真を無断で使った=即アウトではなく、使用の目的・規模・態様を総合的に見て、専ら経済的な利用が目的と言えるかどうかが判断の分かれ目になる、というのがこの判決のポイントです。
広告制作にとっての実務上の意味
この判決を広告制作の現場に引き寄せて考えると、いくつか重要な示唆があります。
① 「広告としての使用」はもっとも危ないゾーンに直接該当する
最高裁が示した3類型のうち、3つ目の肖像を商品等の広告として使用する場合は、まさに広告制作そのものです。
雑誌記事の一部として使われた今回のケースとは異なり、広告での肖像利用は最初から「専ら顧客吸引力の利用」と評価されやすい典型例だと言えます。
無断利用が許容される余地は、記事掲載のケースよりもかなり狭いと考えておくべきです。
② 一般人にも肖像権はある
パブリシティ権は著名人の経済的価値を保護する権利ですが、その土台にある肖像権自体は、有名・無名を問わず誰にでも認められる人格権です。
広告に出演するのが芸能人でなく一般のモデルさんやスタッフの場合でも、無断撮影・無断使用は肖像権侵害になり得ます。
③ だからこそ肖像使用承諾書が必須になる
上記2点を踏まえると、広告制作では被写体が誰であっても、撮影目的・利用媒体・利用期間を明記した承諾書を事前に取ることが、実務上の最低限の防御策になります。
口頭だけの合意はトラブルの元です。
著作権・肖像権、両方の許諾をセットで確認する習慣を
著作権は「誰が創作したか」、肖像権・パブリシティ権は「誰が写っているか」という、まったく別の切り口からチェックが必要です。
広告制作の現場では、
- 素材(写真・動画・音楽)の著作権処理
- 被写体の肖像権・パブリシティ権の許諾
この両方を、契約や承諾書という形できちんと残しておくことが、後々のトラブルを防ぐ一番の近道です。
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※注記 :本記事で紹介した判例の内容(判決日、判旨の要点など)は、複数の法律専門家による解説記事をもとに整理していますが、法律や判例の解釈には専門的な判断が必要な部分も含まれます。
実際の案件に適用する際は、判例集の原文や最新の裁判例・実務動向を一次情報で確認することをおすすめします。

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